sinnryokuこのたび、2015年4月から漢方専門医となりましたのでご報告させていただきます。

専門医の試験が昨年あったのですが、日頃触れている生薬やエキス剤を原点に戻って勉強でき、大変でしたが本当によかったです。
特に、「傷寒論」という書物を最初からひもとくことができたこと、これは小児科で感染症を見ている者にとってはとても大きい出来事でした。

「傷寒論」の作者は、張仲景は西暦300年代に生まれた人です。張仲景の著作とされる「傷寒雑病論」の序文に以下の記述があります。

「余の一族は、もともと二百人にあまるほどいたが、建安元年(AD.196)から10年もたたないのに、死亡するものがその3分の2に達した。そしてそのうち10分の7は傷寒にかかって死んだのだ。こうして死亡者の続出したこと、年若くして死んでゆく人々を救う手段のなかったことを嘆じ、発奮して「傷寒雑病論」を著した……」

この伝染病の記述は、後の研究で、紀元2~3世紀の頃、インドに発生し、ヨーロッパと中国を同時に襲った数々の「大疫」のひとつと一致しています。
医学の歴史の中心は洋の東西を問わず疫病の制圧にありました。

「傷寒論」の「傷寒」とは、今でいう腸チフスやコレラのような伝染病(疫病)だと考えられています。
医学の歴史は昔も今も、西も東も、いつも根源的に伝染病との戦いを見据えなくてはいけない、という部分では、ずっと不変である、ということは真実だと思います。
そのうえで、昨今で漢方薬とは、慢性疾患にじわっと効く、という印象が世間では一般的ですが、本来は、感染症との闘いから始まり、また、抗生剤や抗ウィルス剤のなかった時代に、医師が命がけで使ってきた歴史があるのだなあと思います。

たくさん一族が死んで、悲しくて悲しくて仕方なかったから、これ以上死んでほしくなくて、傷寒論を書いた、ということが、この難解な書物を少しずつ理解していくとわかってきます。

一剤一剤、生薬を加えるたびに、これで助かるだろうか、どうか助かってくれ、という作者の願いが伝わってくるようです。

このような症状の時にはこのような生薬を与えるように、という難解な指示に見えて、理解が深まると、感染症をつぶさに観察した作者の生々しい様子がわかってきます。

小児科ではウィルス性疾患の場合、特に抗ウィルス薬のない場合、傷寒論にかかれている通りの症状をよく垣間見ることがあるのです。
2000年前も今も、人の熱を出した時の症状とはそんなにかわるものではないということも本当に実感しました。
発汗したら熱が下がる人、高熱を出すことはないが微熱を繰り返して元気にならない人、おなかを痛がって高熱がある人・・・・
そんな人に対する治療法を細かく指示しているこの書物の素晴らしさを小児科医としてこれからも探究していきたいと思います。
脈診、腹診、望診、聞診このように感じて診る医学は主観的であると思います。
しかし、人に触れる基本であると思います。
最近では、成人の患者様もたくさんご来院いただき、東洋医学的治療の喜びをたくさん味合わせていただいています。
感染症だけではなく、成人の方の治療にも引き続き邁進していきたいと思っています。

専門医取得にあたり、ご指導いただきました、峯先生、兄弟子の今中先生には本当にお世話になりました。この場を借りてこっそり深く感謝したいと思います。